糖質の多い食品を摂ると、食後1時間以内に血糖値が140mg/dL以上に急激に上がることを、「血糖値スパイク(グルコース・スパイク、ブドウ糖スパイク)」と呼びます。
食後に血糖値が急騰(スパイク)して、時間の経過と共に下降することがひんぱんに起こると、正常な血管の内側の細胞が壊れていき血管障害から動脈硬化が進行し、心筋梗塞、脳梗塞などのリスクを高めます。
ところが、食後血糖値の検査は一般的ではないので、糖質の多い食品を大量に一気に食べ、我が身に血糖値スパイクが起こっているかもしれないことを、ほとんどの人が気づいていません。
特集記事 糖質食事により健常人でも起こる急激な血糖値上昇 に掲載していますが、健常の医師が、2個のおにぎりを食べた後、血糖値を測定すると、1時間後には184mg/dL、1時間半後には204mg/dLと、本人も予測できなかった高血糖スパイクが起こりました。
わずか2個のおにぎりですが、糖質約200g!もあるので、高血糖スパイクを引き起こしたと言えます。
今回は、医療の専門的なテーマなので、持続性血糖測定器”Free Style Libre(フリー・スタイル・リブレ)”で、常時食後血糖値を測定されている糖尿人の花岡篤哉先生と、糖質制限により10ヶ月で30kgの減量に成功したたがしゅう先生に、血糖値スパイクのいろいろを伺いました。
血糖値スパイクが起こりやすい人は、主に次のタイプです
◎ 膵臓からのインスリン分泌能が低下している健常者
◎ 遺伝的に血糖を下げる能力が低い人⇒「耐糖能異常」と言います。
◎ 糖質の多い食品を暴飲暴食する人
それでは、具体的にどんなタイプの人か見てみましょう。
健常者でも、加齢と共に膵臓の機能が自動的に落ちていきます。その結果、インスリン分泌能が低下してきます。このような人は、過度の糖質を摂ると、血糖値スパイクが起こりやすくなります。
膵臓機能の低下は、だいたい40代位から目立ってきます。
先天的な耐糖能異常、もしくは加齢、食生活などの後天的な要因により、糖尿病予備軍になった人は、インスリンの分泌不足や作用不良により、高血糖スパイクが起こりやすいです。
このタイプが、糖質の多い食品を摂り続けると、高血糖スパイクにより膵臓のβ細胞が壊れるだけでなく、その度にインスリンが多量に分泌されるので、β細胞が徐々に疲弊して死滅し、2型糖尿病を発症します。
意外ですが、脂肪細胞でインスリンの効果が弱い反面、膵臓からのインスリン分泌能が高いので、むしろ血糖値スパイクになりにくいそうです。
血糖値スパイクを起こさない体になっていますが、肥満細胞によりインスリンが効きにくい体なので、糖質の多い食品を摂り続けると、多量のインスリンが分泌され続けます。
インスリンは血糖値を下げますが、別名「肥満ホルモン」とも言われ、余分な糖を中性脂肪に変えるのでさらに太るだけでなく、ますますインスリンの効き目が悪くなり、膵臓は働き続けます。そして、ついに膵臓が疲弊、インスリンを分泌しない糖尿病を発病します。
そして、肥満の人でも糖尿病になると、血糖値スパイクが起こりやすくなります。
消化管機能が正常に働いている人は、糖質が吸収されて血糖値が急激に上がる前に、腸でインスリン分泌の指令を出し、急激な血糖値上昇を抑えます。
しかし、消化管機能が低下している人は、その指令が遅れるので、インスリン分泌が遅くなり血糖値スパイクが起こりやすくなります。
やせ型の人は、消化管機能が低下している人が多く、血糖値が上がるだけでなく、下がる時も急激に下がるので、ある意味糖尿病の人よりも大きな血糖値スパイクを起こしている場合があります。
さらに、糖質を取り込む筋肉が少ないので血糖値スパイクが起こりやすいといえます。
血糖値スパイクが起こると、活性酸素が大量に発生し、血管内細胞を傷つけます。傷ついた血管を元に戻そうと、免疫細胞が血管壁に張り付き中に入り込みます。
この免疫細胞により血管の炎症が治まれば修復されますが、治まらなければ免疫細胞の死骸や修復材料のコレステロールなどが酸化して、酸化型コレステロール(=超悪玉コレステロール)ができます。これが、血管内壁に付着し、盛り上がり、血管の内壁が硬くなる動脈硬化となります。
動脈硬化が進むと、血管が狭くなり詰まってくる状態になると、心臓や脳に十分な酸素などが供給されなくなり、心筋梗塞、心不全や脳梗塞などを引き起こします。
怖いのは、動脈硬化は自覚症状がないので、ある日突然病魔が襲い、最悪の場合は死に至ります。
なお、活性酸素が増える原因は、ストレス、紫外線、喫煙、過度の飲酒、過度の運動などもあります。
血糖値を上げるのが糖質なので、控えたら血糖値は上がらない・・・当然といえば当然なのですが、普段召し上がる食事の糖質度を、糖質の多い食品と少ない食品で、チェックしてみてください。
水溶性食物繊維(ねばねば系納豆&オクラ、キノコ類、にんにく、海藻など)は、腸管内で食品吸収を阻害するので、糖質もゆっくりとした吸収になります。その結果、血糖値もゆるやかに上がるので血糖値スパイクにはなりません。
ごぼう、人参、玄米、大麦、雑穀などは、糖質の多い食品なので糖質制限の観点からはNGですが、食物繊維が多いので、糖質の吸収率が遅く、血糖値もゆるやかに上がります。
「糖質制限を実践すれば、運動はしなくてもよい。」と、一部では言われていますが、Pocorinが関わる糖質制限推奨医師の多くは、適度な運動は必要だと考えています。
運動をすることで、筋肉が糖を吸収(糖を消費)して血糖を下げるので血糖値を安定させます。
また、血糖値を下げる目的以外でも、よほどの高齢だったり、全身状態が悪くなければ、まずは少し負荷をかけた運動をして筋肉量を増やすことも大切だそうです。
糖質主体の生活の人が朝食を抜くと、空腹なので昼食にドカッと糖質(例えば、ラーメンとチャーハン)を摂るので、大きな血糖値スパイクになってしまう危険性はあります。
糖質制限推奨医師は大概、1日1食か2食ですが、血糖値スパイクにはなっていません。朝食を抜いても、昼食に、糖質の少ない食品を摂れば問題がないということです。
2016年12月に持続性血糖値測定器の”Free Style リブレPro”が、2017年1月に”Free Style リブレ”がアボット社から発売され、2週間の継続的な血糖値測定が容易になってきました。Pocoirnが関わる医師達も、食後の血糖値測定を始め、血糖値スパイクが、糖質の多い食品の摂取以外の要因でも起きることがわかってきました。
医師の一人(健常者)は、空腹で運動をすると血糖値が150mg/dLになりました。
また空腹で朝入浴すると、血糖値スパイクになることが、複数の医師(健常者+糖尿人)に起こりました。その中の一人、糖尿病の非専門医だからできる糖質制限の指導に掲載されている山本先生は、「空腹」というストレスと「今から出勤」という気持ちが、血糖値を上げるアドレナリンやコルチゾールのホルモンを分泌させたのではと推測しています。
どうやら、ストレスも、血糖値スパイクの大きな要因のようです。
また、血糖値上昇には無関係と考えられているタンパク質でも一回に大量に摂取すると、血糖値スパイクが起きました。
前記のおにぎりを食べた医師は、食後すぐに血糖値を下げる為に適度な運動を行いましたが、血糖値スパイクが起こりました。
今後、血糖値スパイクの新たな要因が、この画期的な測定器により次々に判ってくるのではと予測されます。
幼少から糖質づけの食生活を続け、さらに母親が糖尿病なので遺伝的要素もある花岡先生は、39歳で糖尿病を発病しました。
「若い時は、高血糖スパイクが起こっても、細胞の修復機能があり問題なかったのでしょうが、加齢、遺伝子、暴飲暴食の3要因により、多分30代初め頃から高血糖スパイクが絶えず起きていたのでしょうね。」と、当時を振り返る。
現在、花岡先生は、1日の糖質摂取量が10g以下のスーパー糖質制限を実践しているので、高血糖スパイクとは無縁の生活を送り、糖尿病の薬による血糖値コントロールもしていません。しかし、実験的に糖質の多い食品を摂ると、みごとに血糖値スパイクが起こるそうです。
40代はじめから健康診断の数値に異常が現れてきても、さほど気にせずに、糖質過多の食事生活を続けると、高血糖スパイクはひんぱんに起こっています。そして、自覚症状がないまま血管がボロボロになり、50代後半に突然心臓や脳に障害が起こります。または、徐々に糖尿病へと進行します。
特に40代以上の方は、今まで慣れ親しんできた食品のチェックをしてみて下さい。糖質の多い食品を過度に飲食する食生活でしたら、食養生として糖質を控えることを始めて下さい。健康を失ってからでは遅すぎます。