先日アメリカを訪問した際、現地人との会話で、gluten free(グルテン・フリー)、gluten free dietという言葉がひんぱんに出てきました。さらにレストランのメニュー、食品のパッケージからサプリや歯磨き粉のラベルまでgluten freeと書かれています。
欧米でブームになっているとは聞いていましたが、予想以上です。そこで、ブームの背景を調べ、ローカーボ(糖質制限)の観点からグルテン・フリー食品を検討してみると、その盲点が見えてきました。
グルテンとは、小麦、ライ麦、大麦、ライ小麦などの穀類に含まれるたんぱく質の総称です。グルテンは、粘り気と弾力を出す働きがあるので、パン、パスタ、うどんなどさまざま食品、さらに化粧品、サプリ、医薬品などにも使われています。
グルテン・フリーとは、グルテンが入っていないことを意味しています。グルテンが含まれていない原材料を使用した品を総じてグルテン・フリーと呼んでいるようです。
グルテン未使用の食材を摂るグルテン・フリー・ダイエットは、もともとはセリアック病の治療を目的とした食事療法でした。
セリアック病は、グルテンを摂取すると、自己免疫反応により小腸に損傷をもたらして食物が適切に吸収できなくなる疾患です。下痢、腹痛、疲労感、頭痛、栄養失調、骨粗しょう症、神経障害などを引き起こします。
現在、セリアック病をもつアメリカ人は約180万人で、50年前と比べ4倍の患者数です。
セリアック病増加の原因のひとつと考えられているのが、アメリカ人のグルテン摂取量の増加です。1990年代に米国農務省は、穀類をアメリカ人の食生活に欠かせない食材として位置づけたため、穀物を原材料とするパンなどの食品の摂取量が増えました。
また穀類の改良によりグルテン度(粘り気)は、旧世代の穀類よりも強くなりました。
こうしてグルテン度が増したグルテン食品づけの食生活により、セリアック病患者が増えただけでなく、グルテン不耐症の人まで現れ、その食事療法としてグルテン・フリー・ダイエットが注目されるようになりました。
2013年米国食品医薬品局(FDA)は、セリアック病やグルテン不耐症をかかえる消費者の安全性のために「グルテンが20 ppm未満の食品をグルテン・フリーとする。」と定義し、基準を満たした食品などのパッケージには、”gluten free”という文字と合格マークが付くようになりました。
こうしたお墨付きのためか、多くのアメリカ人が「安心のグルテン・フリー」「信頼できるグルテン・フリーのマーク食品」と認識するようになったようです。
さらに、テニスプレイヤーのジョコビッチがグルテン・フリー・ダイエットをとりいれ、体質が改善、テニスがさらに強くなったことで「グルテン・フリーで体質が変わる!」と、グルテン・フリー・ブームに拍車がかかりました。
「減量」効果?も、肥満大国のアメリカ人をとりこにしたようです。
おもしろいことに、検査を受けずに「私はきっとグルテン・アレルギーだ。」と思い込む人まで現れたそうです。
実際、今回滞在中に会ったアメリカ人約150人の中には、セリアック病患者はいませんでしたが、多くの人が、”グルテン・フリー” マークのクラッカー、シリアル、パスタ、クッキーなどを常食しているのです。しかし、ほとんどの人が肥満で、体の不調があるようです。
ここに一般消費者向けのグルテン・フリー食品の盲点が見えてきます。
米国で販売されているグルテン使用の食品をあげてみました。
パン、ピッツァ、シリアル、ケーキ、パイ、クッキー、キャンディー、クラッカー、ポテトチップス、トルティアチップス、粉使用のフライドポテト、パスタ、ビール、ケチャップ、ソース、ソースで煮込んだ野菜、調味料、ドレッシング、スープ、スープのもと、冷凍食品、インスタント・コーヒー、シーフード、加工肉、ソーセージ、マスタード、醤油(Soy sauce)、 など
※グリーン文字の食品は、糖質の低いものです。
これらは、アメリカ人が好む食品ばかりなので、ほとんどすべて代替品があり”グルテン・フリー”食品として販売されています。
代替品は、原材料として小麦の代わりに、じゃがいも粉、米粉(または玄米粉)、とうもろこし粉、グルテンを含まない混合粉などを使用しています。つまり、グルテンは排除していますが、糖質は排除していません。 さらに糖質量は、小麦ベースの食品よりもグルテン・フリー代替品の方が多いようです。
グルテン・フリーのスィーツには、砂糖だけでなくハチミツ、フルーツ(糖質の多い食材)を多く使うようです。また口あたりをよくするために、砂糖や脂肪を加えていることもあるようです。
さらに、小麦ベースの食品よりミネラルなどの栄養価は低く、高GI指数で、食物繊維も余り含まれていないことが多いようです。
こうしてみると、完全なグルテン(糖質)抜きのダイエットであれば、糖質制限と一部類似するのですが、ブームの“グルテン・フリー” マーク入り食品のほとんどが、糖質制限の観点からは完全にNG食品です。
「痩せる」効果を期待して、糖質の多い”グルテン・フリー” マーク食品を盲目的に大量に食べていると、太るホルモンのインスリン分泌も促進し、内臓脂肪が蓄積されるので、肥満体型になるのは当然の結果でしょう。
“グルテン・フリー” マーク食品を摂っているセリアック病やグルテン不耐症の人で体重増加が多いのも、病気が治癒した理由だけでなく、糖質の過剰摂取も原因だと言えると思います。
“グルテン・フリー” マーク食品による「体調改善」も、セリアック病やグルテン不耐症以外の人に効果があるのでしょうか。
実際、小麦使用のパンを摂っていたジョコビッチは、グルテン不耐症だったので食事療法としてグルテン・フリー・ダイエットを取り入れたのです。また彼の場合、たとえ糖質の多いグルテン・フリー代替食品を摂取したとしても、エネルギーを膨大に消費するアスリートだという点です。
怖いのは、セリアック病ではない一般消費者が、グルテン・フリーのブームに踊らされ、糖質の多い“グルテン・フリー” マーク食品を摂り続けていることです。これは、アメリカ人が抱えている肥満、糖尿病、心臓疾患などの問題を解決するどころか加速させる!と危惧します。
“グルテン・フリー” マーク食品は、一つの条件は満たしますが、別な条件では問題ありと考えられます。
ふすまパン、糖質ゼロビールなど糖質制限関連の代替品は、今の所こういう問題点はありませんが、誤解を生みやすい表示はあります。例えば「砂糖ゼロ」表示を「糖質ゼロ」と思い込み、糖質量を確認しない人が多いと思います。正しい糖質制限知識を身につけ、栄養成分表、原材料は是非チェックして下さい。
最後に、出会ったグルテン不耐症だと診断された細身の女性は、”グルテン・フリー” マーク食品にたよるのではなく、グルテン(糖質)を控えた食事のおかげで、痩せて、体調がすこぶる良くなったそうです。これはグルテン・フリー・ダイエットとローカーボ・ダイエットのダブル効果だと言えるのではないでしょうか。
〈 参照 〉
iVl.com
GlutenFree.com
Melcora.com
Gluten-free Living
Dr.William Davis
LIFE TIME Weightloss