コラム


糖質制限によりわずか10日で血圧が180から150になった《糖質制限推進派医師 山本拓先生の解説付き》【File No.14】

2020.10.15

日本の高血圧人口は約4300万人(平成26年厚生労働省の調査)、日本人の3人に1人が高血圧いうことだが、そのうち33%は自覚していない。静岡県在住のY.O氏(61歳、男性)もその一人だ。保険加入時の健康診断で血圧が測定不能になり初めて高血圧だとわかり「これはマズイ」と思ったそうだ。

高血圧の原因は、加齢、ストレス、メタボリック・シンドローム、体質などと言われているが、糖質の過剰摂取も大いに考えられる。Y.O氏の体験談はまさにそれを物語っている。

 

高血圧に効くとされることは何でもやった

実はY.O(”氏”は省略する)は大学時代の旧友で、2019年8月26年ぶりに再会した際に高血圧になったとぼやく。昼食に海鮮丼を完食したY.Oの食生活に原因ありき!と思い、先ずは話を聞いた。高血圧に効くとされることは何でもやっていると言う。

晩酌の焼酎は止めた。お酒が食欲を増進していたようで、禁酒後は一気に食べる量が減った。以前はおかずと大盛りのごはんをしっかり食べていた。外で飲むと〆のラーメンは大盛りが当たり前だった。

太った理由が45歳から15年間食べ続けた厚切り食パン2枚のハム&キャベツ・サンドイッチではないかと考え、朝食は牛乳をかける糖質50%オフのグラノラに変えた。バナナ1本とトマト/野菜ジュース1杯は必食となった。

TVや雑誌の情報を信じて「玉ねぎの甘酢漬け」を毎日2回食べている。

適度な運動も始めた。1日5000歩を心がけ、毎朝3500歩の散歩をする。

こうして健康診断時に176cm76.5kあった体重は、摂取量の激減と適度な運動により、9ヶ月で67.5kgまで落ちたしかし血圧は180以下になってくれない

 

高血圧の改善には不適切な食事内容

Y.Oが続けていた食事は、明らかに糖質量が多く、体に必要な栄養素である「たんぱく質」と「脂質」 が十分摂れていない。食事量が減ったので痩せはしたが不健康に痩せただけだ。

また量こそ減ったが昼食と夕食にごはんを食べている。

「〇〇に効く」という食材や食事は根拠がない。Y.O氏が続けていた「玉ねぎの甘酢漬け」「食物繊維たっぷりのグラノラ、バナナ」「野菜不足のためのトマト・野菜ジュース」なども当てはまる。糖質が多く高血圧の改善や減量などには不適切だ。

そこで、主人と私が5年前に糖質制限を始め若い頃より健康になったこと、高血圧が改善した人が多いことを伝えると「糖質制限の話を聴きたい!」と身を乗り出してきた。

糖質を控える分肉、魚、卵、チーズ、ナッツ、MCTオイルなどで「動物性たんぱく質」と「脂質」 をたっぷり摂る食事を奨めた。魚や肉を材料にしているアジフライ、ミンチカツ、魚の練りもの、餃子やシュウマイを食べて良いか聞かれたが、これらは糖質が多いのでNG食品だ。

Y.Oは躊躇することなく3食ごはん抜きスーパー糖質制限を翌日(2019年8月7日)から始める決意をした。

禁酒、3500歩の朝の散歩はそのまま続けることにした。

 

糖質を控えタップリのたんぱく質と脂質を摂る食事

それまで食べていた食事がドラスティックに変わった。


【朝 食】Y.O特製 “ちゃんこ味噌汁” 2杯、チーズとハムをのせたオムレツ(卵1個)が最近の定番だ。糖質が多い食品は少量だがまだ食べている。バナナ【糖質28.2g/1本≑角砂糖7.05個分】1/2本、ジャムを入れたヨーグルトだ。もちろんパンやごはんは無し!


”ちゃんこ味噌汁”は毎回14種類位の具材を用意する。

人参、じゃがいも、里芋、玉ねぎ、なす、冬瓜、干しシイタケ、しめじ、モロヘイヤ、大根、枝豆、葉もの野菜、わかめ、ひじき、豆腐、油揚げ、貝柱などに必ず豚肉50gを入れる。昆布、鰹、あご(トビウオ)で出汁を取る。糖質の多い白みそは使用せず、信州味噌だ。

赤字の食材は糖質が多いが3人分なので摂取量としては少ない。

【昼 食】 焼き鳥(塩)、惣菜、糖質が多いがメンチカツやトンカツなども食べることがある。キャベツの千切りが好物で必ず食べる。

キャベツは低糖な葉もの野菜の中では【糖質約1.1g/枚(30g)】と多いので食べ過ぎには要注意!

【夕 食】 肉より魚をよく食べる。キャベツの千切り。シャリ2個分位のごはんを最後に食べている。これは「ごはんを食べないなんて。体も頭も働かなくなる」と心配する家族への配慮だ。

※ ごはんや糖質の多い食品は食事の最後に食べると血糖値の上昇がゆるやかになり血糖値スパイクが起こりにくい。

【間 食】 チョコレートを2かけつまむ程度で間食はしない。低糖人が食べているナッツ類もほとんど食べない。時々甘いものが無性に食べたくなるが、家に何もないとあきらめが付く。猛暑の夏は普通のアイスクリームを半分に分けて食べていた。

 

血圧、体重、シミ、加齢臭の効果

糖質制限は始めて10日後、嬉しい内容のメールが届いた。「血圧が下がりました。151の93! もうびっくりです。本当にありがとうね」

さらに1ヶ月後のメールには「驚いたのが、知らないうちに5kg痩せて62.5kgになっていました」Y.Oは身長が176cmあるので、5kgの減量では痩せた実感はなかったが、鏡をよく見ると顔のラインが細くなっていたそうだ。

味覚の変化もあった。料理に塩をほとんどかけなくても美味しいと感じるようになった。

1年間で血圧は順調に下がり続け現在は130/90前後で落ち着いている

体重もさらに減って現在57.5kg。最も痩せた大学時代でも59kgだったので自分でも驚いているそうだ。お腹がへこみお腹の皮が引っ張れる。28インチ、72cmのパンツでもブカブカで手が中に入ると電話口で嬉しそうに話す。

糖質制限を始めて1ヶ月位から顔に出ているシミが薄くなっていることに気がついた。しかし1年経ってもシミは完全に消えなかったが、糖質制限前はシミが濃くなっていったので「加齢が止まった」と感じている。

加齢臭もなくなった。

 

山本拓先生の解説:高血圧症の原因と食事

糖質制限推進派医師 杏クリニックの山本拓院長に糖質制限の観点から高血圧症の原因を説明して頂いた。

高血圧症の原因

原因の明らかな「二次性高血圧症」を除いて、原因を一つに定められない「本態性高血圧」は、加齢、過食、ストレス、運動不足などが多いと思います。 一般の人は ”過食” をカロリーオーバーと考えていますがカロリーではなく糖質の過剰摂取です。

複合的ですが、糖質の過剰摂取によりインスリンが過剰に分泌され内臓脂肪が増えてきます。インスリンは糖質摂取で上昇した血糖値を下げるホルモンですが、余分なグルコース(糖分)を内臓脂肪に蓄積させる”太るホルモン”でもあります。

内臓脂肪が蓄積すると脂肪細胞から分泌されるアディポサイトカイン分泌異常が起こります。これが動脈硬化を促進させ、高血圧症、糖尿病、脂質異常症を発症させます。

アディポサイトカインの分泌異常によりインスリンが効きにくくなることを補うために、膵臓β細胞からインスリンが過剰に分泌されます。この「高インスリン血症」では、腎臓のナトリウム(塩分)排除を妨げるので、血液中の塩分濃度が上昇し血圧が高くなります。また交感神経も緊張するので、血管が拡がりにくく血液量も増え血圧が高くなります。

糖質制限による改善効果

糖質制限により「高インスリン血症」は改善します。

“太るホルモン”のインスリン分泌が抑えられるので内臓脂肪が減り、アディポサイトカインの分泌異常も改善します。

減量しても血圧の下がらなかったY.Oさんのケースは、糖質制限で「高インスリン血症」が改善されたと考えてもおかしくないと思います

また健康診断時、BMIは24.6なので肥満ではないですがやや太めです。9kg痩せてBMI21.8になっても内臓脂肪があった可能性はあります。

減塩・減甘で満足できる味覚

Y.Oさんも料理に追加の塩をかけなくなったと聞きましたが、白米を食べずにおかずを中心に食べていると、それまで普通の味付けだと思っていたおかずは塩分が多いことに気付きます。自然と塩分の少ないおかずを選んで食べるようになります。

砂糖やみりんを使用したおかずは甘く感じるようになり、味つけはシンプルに塩が多くなってきます。精製された塩よりも、カリウムやマグネシウムが豊富で美味しい岩塩や天日塩を利用するようになります。カリウムは血圧を下げる効果があります。マグネシウムは血液循環を正常に保つのに必要な栄養素です

糖質の少ない葉もの野菜、海藻、キノコを多く摂るようなり、カリウムやマグネシウム摂取が増えます。

降圧剤の服用

私の経験では、糖質制限により体重が40kg減量し降圧剤の服用を中止した患者さんがいました。しかし、ほとんどの人は1日の糖質摂取量を40g未満にするのは困難です。40kg減少したこの患者さんも最近リバウンドが少しあります。

ある程度糖質制限を実践している人でも、家庭血圧で140/90mmHg 以上の場合は降圧剤を使用しています。ご本人と相談し高くても服用しない人もいます。また家族歴で高血圧家系の場合は、それほど高くなくても服用をする人もいます。

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